自然の中へ、そして心の中へ!

 


自然の中へ そして心の中へ

第5章

小鳥と戯れる至福の時間

山小屋に暮すようになり、好きな小鳥たちが来てくれるようにと、ひまわりの種や麻の実などを山小屋の近くに置いたり、バードヒィーダーに入れて軒下に吊したりしました。 しかし、最初の数週間は何も来てくれませんでした。それでも、雨で濡れて傷んだ餌をこまめに取り替えて根気良く小鳥たちが来てくれるのを待ちました。やがて、知らないうちに、どうやら小鳥たちが来て餌を啄んでいることがわかりました。そのうちに僕が近くにいる時にも、飛んできて餌を啄むことが多くなってゆきました。日に日に慣れてきて、僕が直ぐ近くにいても飛んで来ては餌を啄み始めました。

手から餌を貰うヤマガラ
 

そんなある日、夢を見ました。僕は小鳥が好きで餌をあげたりしている。いつか小鳥が僕の手から直接餌を啄み、同じ山に住む仲間として過ごせたらと心から望んでいる。しかし、小鳥たちは僕が近ずくと飛び立って逃げてしまう。ここまでは現実の世界です。それで夢というのは、小鳥が一羽飛んで来て、いつものように餌を啄み始めました。僕は静かに邪魔をしないように無視するようにしていました。ところが小鳥は僕に興味があるのか、いつもと違ってピョンピョンと近づいてきました。そのうちに僕の肩に飛び乗り、そこが自分の指定席のように馴染んでしまうのでした。夢の中で、僕はとても優しい気持ちに包まれたようになりました。

 
その夢を見てからは、小鳥たちと仲良しになるのは早かったです。手の平に餌を乗せて差し出すと直ぐに飛んで来るようになり、 常に二十羽近くの山雀が山小屋の周りにいることも判りました。ヤマガラやヒガラ、エナガ、この地方で見られるほとんどの小鳥が山小屋の近くに飛んで来ましたが、懐いて飛んで来るのはヤマガラでした。初秋に餌を置だしてから、初冬の頃には、こんなにも野鳥が懐くものなのだろうかと思うほどになっていました。僕が山小屋の中にいると、窓のところにとまって、ずっとこちらを見ています。外に出ると直ぐに飛んできては頭や肩にとまって嬉しそうに甘えたようにチィーチィーチィーと身体を揺すって鳴く様を見ると、可愛くて可愛くて、つい大好物の落花生を買ってきてはあげてしまいます。手の平の餌を啄む時に、小鳥のお腹を指で撫でると、ふわふわとして気持がよいのです。それをトモダチに言うと小鳥に対するセクハラだと笑います。

山小屋の周囲は植林されていた山林でしたが、20年間、手を入れていなかった為に、自然本来の雑木が植林された檜の間に生えていました。これ幸いと檜を切り、雑木林に戻す作業をしています。そんな作業中の出来事です。木もれ日の中、木々の間を通る爽やかな風に涼を感じて木にもたれて一休みしていました。そうすると、チーチーという甘えた鳴き声がするので目で追うと小鳥が僕の傍にいるのです。餌を持っていなくても手を出せば手に止まり嬉しそうに頭を振ってチーチーとさえずるのです。その時には、本来、すべての動物は人間と仲良くしたいのではないかと思ってしまいました。木々や 小鳥たちを育む自然というものに、神のあたたかい心を感じてしまいました。

 
手乗りヤマガラ

 
小鳥たちと接するようになり、いろんなことを学びました。1羽1羽、驚くほど、それぞれが個性を持っていました。仕種も違えば、性格も違いました。積極的な小鳥もいれば、引っ込み思案な小鳥、手の平の餌を気に入るまでくわえては下に落とす小鳥や、いじわるな小鳥などいました。そんな中で特別 よく懐いて可愛い小鳥がいました。他の小鳥が餌を求めて手の平にくれば、それを譲って肩にちょこんととまっては待つ、ひかえめで、つつましくて、仕種がなんとも優しい小鳥でした。その小鳥が首をかしいで斜めにすくうように餌をくわえたり、おしりをつきだして前屈みになって飛び立っていく姿はとても愛らしくて、思わず篭の中に入れて飼ってやろうかと思うほどでした。小鳥は皆、可愛いのですが、それでも相性や波動が合う合わないがあるものだと感じると、小さな小鳥の命も、人間と同じようにかけがいのないものだと心底思い知らされました。 一年経ち、再び小鳥が懐いて飛んでくるようになりました。しかし、あの一番懐いていた、可愛い小鳥の姿がありませんでした。もしかしたら、僕があまりにも人間に慣れさせた為に、誰かにかどわかされたのではないだろうか、それとも自然淘汰されて死んじゃったのではないかとか思い、とても悲しい思いをしました。山小屋の回りで、僕がいれば、殆どの人に小鳥は懐いて飛んではきましたが、僕がいない時は、近くまで飛んできても手には乗らないと、地元の人が云っていたので、たぶん、自然淘汰されたのだと、都合の良いように思うようにしました。もし本当に自然淘汰で、あの可愛くて優しい小鳥が生き残れなかったのであれば、そんな自然というものを考えてしまいました。人も自然もすべての存在が、ひとつ高い次元に進化して、そういう弱い存在をも暖かく育むようになって欲しいものだと、心から願いました。

ヤマガラ
 

とても懐いていたヤマガラも、春になり卵を暖めだすと、僕のことなど見向きもしなくなります。そんなある日、巣箱で山雀が変な鳴き方をするので、ロフトの窓から外に顔を出して見たら今度は物干し竿に止まって僕の方を見て何か訴えるように鳴き続けるのです。何だろうと思い外に出て、あたりを見渡したら巣箱の近くまでヘビが壁をよじ登ってきていたのでした。早速棒を探してヘビを追っ払ってやりました。しかし、それでも何かを探しているようにあたりを見渡して鳴くので、ひな鳥か卵でも取られているのかと思いヘビを再び探し出して見てみましたが別段何か飲み込んだ様子はありませんでした。ヤマガラはすぐ近くを飛びながら僕がヘビを追い払うのを真剣なまなだしで見つめていました。そんな感じがヤマガラからひしひしと伝わってきたのでした。なんだか最近僕に懐いていないと思っていましたが、僕のことを頼りにしているのだと思うとなんだか嬉しく思えました。


【熊野ライフ通信では、ヤマガラやタヌキとの触合いを写 真と文章で紹介しています.】

 



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