戦時中、一部の産業界や軍部から天才科学者と評価されていた楢崎皐月という人物がいました。その楢崎皐月が戦後、才能を高く買ってくれていた星製薬社長の星一氏の依頼で、当時の食糧難と将来に備えた農業技術の開発という名目で研究を始めることになりました。そこで、助手の青年数名と一緒に六甲山系・金鳥山に入り六十日余りの穴居生活をしながら研究をしていたろころ、穴居の扉をドンドンと叩く者がいました。楢崎皐月が出ていくと、初老の猟師が鉄砲を持って立っていました。猟師は「山に何しに来た。お前さんたちが泉に妙なものを仕掛けるから、森の動物たちが水を飲みに行けなくて困っておるのじゃ。すぐに除けてやってくれ。あそこは動物たちの水飲み場なんじゃ」と訴えるのでした。それは楢崎皐月たちが泉に電線を張り巡らせて水の成分も分析していたからでした。翌朝、楢崎皐月たちが電線を外すと、その夜に再び猟師が現れました。「お前さんたちは感心な人たちじゃ、穴居しなければ本当のことは分からんものじゃ。これは、すぐに外してくれたお礼じゃ」といってウサギを1羽くれたといいます。そして、その猟師は「儂は平十字という者じゃ、父親はカタカムナ神社の宮司であった。これは父祖代々伝わるご神体で、儂たちなんかが見たら眼がつぶれると伝え聞いているもので、秘密にされてきたものなのじゃが」と告げられて古い巻物を見せられたといいます。その巻物は古い和紙に書かれてあり、円と十の字を基本とした図形を渦巻き状に配列したもので、暗号のようなものに見えるものでした。猟師は「今までにこれを見て、刀のつばや定紋ではないかといった学者がおったが、そんなものではないのじゃ、このカタカムナの神を伝える家は、平家と食家(中家を入れて三家という説もある)の二つしかない」と語ったといいます。楢崎皐月はその巻物に描かれていた図形を見て、満州にいた頃に老子教の道志であった蘆有三に聞いた話を思い出しました。それは「日本の上古代に、アシア族という種族が存在し、八鏡の文字を使い、特殊の鉄を作り、さまざまな生活技法を開発し高度な文明を持っていて、それが神農氏らによって伝えられシナの文化のもとになったものと秘かに伝わっている」というものでした。巻物の図形を見て、楢崎皐月はこれが八鏡文字ではないかと直感したのでした。そこで楢崎皐月は猟師に巻物を写
し取ることを申し出ました。平十字と名乗る猟師はすぐに了解したといいます。このようにして楢崎皐月が六甲山中で平十字と名乗る不思議な猟師に出会ったことで写
し取った図象がカタカムナ文献だとされています。カタカナのもとになったのがカタカムナ文献であり、平十字なる人物がサンカ(山窩)ではなかったのかとの話もあります。
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